看護師 求人をターゲットに
わが国では従来、望ましいことではないけれども、医療行為を人で練習してきた。
最近になって、アメリカから考え方と装置が輸入されるかたちで、人形や機器を使って医療行為を練習するようになった。
実際には、まだあまり実用的ではなく、試行的な段階にとどまっています。
私は、現時点の状況は、思想運動の段階だと思っています。
ロボットでできるかぎり訓練を積み、その上でようやく生身の人間に移るという、強いメッセージが込められています。
世界中で努力が重ねられており、いずれ、実用的なものになっていくに違いありません。
シミュレーションエフボ・センターは、虎の門病院など国家公務員共済組合が経営する病院の有志が共同で運営しています。
〇六年の四月には、各病院の新人医師を集めて、川9動静脈の採血、縫合、中心静脈カテーテルの挿入、気管内挿管、腰椎穿刺、BLS(一次的な救命処置)などを二日間かけて訓練しました。
いずれの項目でも、教える側と習う側にほぼ同じ人数が必要なので、かなり大変でしたが、新人医師には好評でした。
この他にもACLS(二次的な救命処置)、アナフィラキシーショックの治療、消化管の内視鏡、腹腔鏡手術、人工呼吸管理などのトレーニングメニューが用意されています。
精神的負担のない「密告」制度先ほど述べた「手術室安全マニュアル」の中に、バリアンス手術報告制度を作りました。
手術室の透明性を高めるためのものです。
何らかの事故があったときは必ずどれかに合致するような、十一項目の条件を設定しました。
血圧が急に下がる、予定時間より長くなる、予定していない術式を加えた、予定以上に輸血が多くなった、そうしたことをチェックし、患者の名前、病棟名と日付を入れてポストに入れる。
詳しい内容を記載する必要はないし、報告者の名前も書かなくていいのです。
それを医療安全管理者がオカレンス報告に当たるかどうかをみる。
該当すれば、執刀医に報告を求めます。
一種の密告制度ですが、内部告発ですと論理的倫理的に筋が通っていてもうやむやにされたり、正当な手続きを踏んで処理されていない情報が出たというので、告発した当人がひどい目に遭うこともある。
実際に、突然そういうものが新聞に出て、大騒ぎになると病院も大きな損害を被る。
しかし、内部告発にはしばしばそれなりの正義があります。
告発者を、非難することも、やめさせることも社会から反感を買います。
そこで、制度化したということです。
虎の門病院ではよく受け入れられており、文句を言う医師はあまりいません。
事故の報告を受ける調査委員会は、査問委員会ではありません。
事故を正当に処理することで、当事者を危険な状況に置かない、また、本人に過剰な精神的負担をかけないようにする。
それがあって初めて、バリアンス手術報告制度が医師に受け入れられるのです。
日本医療機能評価機構による報告書では、全事故のうち四五パーセントが病室、一四パーセントが手術室で発生しています。
こうした制度があることで、透明性を確保するために我々も努力している、と社会に対していえますから、メリットはあると外科医たちも感じているのです。
「死に至ることもある」という一文虎の門病院では、医師が患者に説明し、同意を得なければならない診療行為を決めています。
基本的に、手術はすべて、それから生検(組織を採取する検査)、血管以外のところに針を刺す診療行為、消化管の内視鏡、造影剤を使うすべての検査、抗がん剤の静脈内投与の治療-こういった身体への侵襲を伴う診療行為には、すべて説明と同意が必要になります。
説明文書はコンピューターから引き出してプリントし、患者に手渡します。
「説明と同意」の手続きがとられたことを確認するマニュアルもあります。
説明した当事者ではなく、その診療行為に関わる別の医療従事者によって行われ、実際に同意文書がなければ、もう一度最初からやりなおします。
個々の診療行為の説明文書で細かく合併症を列挙しても、やればやるほど患者は医療側の防御姿勢を感じることになります。
結果として、医療への不信感を植えつけます。
あらゆる可能性にもとづいて詳細に書いてあればいいわけではありません。
それよりは大まかに、どういうことが起こり得るのか全体像を示す、つまり頻度が高いもの、重大なものについて説明しています。
二十~二十五年ほど前まで、わが国で使われていた手術への同意書には、しばしば次のような文言が見受けられました。
「手術を受けるにあたり、いかなる結果になろうとも、一切異議を申し立てません」。
これでは医療側の都合ばかりが勝っていて、素人は口を出すな、という感じです。
私は、従来、医療がどのようなものであるかを、総論として示す必要があると思っていました。
〇三年一月、私は、前文つきの手術の同意書を新しく作成しました。
前文で、医療とはどのようなものであるのかを説明しました。
この説明文書は徐々に広がっています。
大学病院で使用しているところもあります。
東京、愛知の大きながん治療の専門施設でも使用されることになりました。
承諾なしに使っている施設もありますが、私としては、文句を言うつもりはありません。
むしろ大いに使ってほしいと思っています。
患者に、生命と医療の本質的な性格を理解してもらうために作成した「説明と同意についての原則」とする前文は、以下の通りです。
「多くの診療行為は、身体に対する侵襲(ダメージ)を伴います。
通常、診療行為による利益が侵襲の不利益を上回ります。
しかし、医療は本質的に不確実です。
過失がなくとも重大な合併症や事故が起こり得ます。
診療行為と無関係の病気や加齢に伴う症状が診療行為の前後に発症することもあります。
合併症や偶発症が起これば、もちろん治療には最善を尽くしますが、死に至ることもあり得ます。
予想される重要な合併症については説明します。
しかし、極めて稀なものや予想外のものもあり、全ての可能性を言い尽くすことはできません。
こうした医療の不確実性は、人間の生命の複雑性と有限性、および、各個人の多様性に由来するものであり、低減させることはできても、消滅させることはできません。
過失による身体障害があれば病院側に賠償責任が生じます。
しかし、過失を伴わない合併症・偶発症に賠償責任は生じません。
こうした危険があることを承知した上で同意書に署名して下さい。
疑問があるときは、納得できるまで質問して下さい。
納得できない場合は、無理に結論を出さずに、他の医師の意見を聞くことをお勧めします。
必要な資料は提供します。
他の医師の意見を求めることで不利な扱いを受けることはありません」手術について説明するとき、私は必ずこれを読み上げます。
泌尿器科では皆そうしています。
あらたまった態度で、ゆっくりと読む。
読み上げることで背筋がシャキッと伸びる。
患者もそれなりに真剣になる。
患者本人は、自分が決断の主体であることを意識する。
儀式めいていますが、不毛なトラブルを防止するには、有用だと思います。
この前文についての患者へのアンケート調査を実施しましたが、患者側には拒否反応は殆どなく、よく受け入れられているという結果でした。
詳細は、『慈恵医大青戸病院事件医療の構造と実践的倫理』(日本経済評論社)に書きましたので、興味のある方はお読みください。
納得できない場合には、他の医師の意見(セカンド・オピニオン)を開くことも勧めています。
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